1月のはじめごろ見逃して、ずっと時間なくて見られなかった「新・幕末史」の完全版を半年近くたった先日、ようやく見ました。
ご存知でない人に改めて説明すると、発掘史料と、現地調査、当時の銃火器の再現実験から得られた知見と、ゴリゴリに凝った再現ドラマで、今まで国内だけの話で語られがちだった日本史を、世界史の中で見直そうというコンセプトの番組です。
地上波で去年の秋、2回に分けて放送があり、両方とも見たのですが、感想が書けたのは前編だけです。そしてその完全版が当番組で、最初はBS4Kで放送されました。
過去の記事↓
長くなってしまったので、目次から興味のあるところをどうぞ。
全体的な感想
- 黒海を巡るロシアとイギリスのクリミア戦争と、アメリカ黒船来航は同じ1853年で、戦争に負けたロシアが、不凍港を求めて逆方向の極東に目を向け、この二国のあおりを食らったのが幕末の動乱の元、というのが番組の基本ライン。
- 幕末と言い条、1861年から函館五稜郭の戦いの1869年までの、1860年代を主に扱っています。
- イギリスの外交攻撃をあの手この手でかわす、あるいは打破しようとする幕臣(小栗忠順、勝海舟、榎本武揚)対イギリスの外交官のパークス、みたいな印象を受けました。
- 戊辰戦争の従来のイメージとして、最新式の欧米の銃火器をそろえた倒幕(主に薩長)側に対し、幕府側並びに奥羽越列藩同盟側は古い火縄銃などで戦っていたイメージが私にはありましたが、佐幕側も外国から最新式の火器を輸入していて、討幕派が苦戦する局面もあったとのこと。
- 幕府側の対応に関し、武士だからこそ戦いを避けるという東大の研究所?の方の言葉が印象に残りました。
- 下関戦争(長州藩とイギリスを中心にした列強国との砲撃戦)で幕府が肩代わりした列強への賠償金を、薩摩・長州側にイギリスが流した、という話はネットで見かけて知っていましたが、これ電波に流すのか、と思いました。
- 戊辰戦争は会津の悲劇が有名ですが、海外の武器商人との取引ができる新潟港のある長岡藩に列藩同盟の戦力が集まっており、ここでかなりやられてしまった*1ことが敗北につながったというのは知りませんでした。
調査編
- 完全版で追加されたシーン? として、黒海の海底探査が映ってます。これを撮影した頃(一昨年くらいだと思う)はよもや戦争になるなんて思わなかったでしょうね。
- 国内調査で追加されたシーンとして、鳥羽伏見の戦いに関し、地上波で出てきたお寺だけでなく、地元の一般人の家にも、当時の砲弾が残っていたり、近くの河原?に昔は竹やぶがあり、その頃はもっと砲弾がゴロゴロしていたという証言が入っていました。
- 兵器の実験に関してですが、アームストロング砲に関する実験でライフリングの有無による性能差は、弾丸の速度が2倍になるとのことでした。(ということは多分飛距離も倍になるんでしょうか。)
- 水入りのドラム缶をいくつも打ち抜くアームストロング砲の威力は納得しましたが、ちょっと首をひねったのが、長岡藩(新潟)で活躍したガトリング砲の威力実験。厚さ数10センチの大きな氷を使って離れたところから撃つのですが、この氷が空気が入っているのか、随分白く脆そうに見えて、ほんとに威力あるの? と思ってしまいました。もっと良い氷か、他の何かわかりやすい標的はなかったものでしょうか。
ガトリング砲に関しては、幕末とほぼ同時期の南北戦争に関して詳しい方からこんなご意見もあるのを添えておきます。
これはいろんな人に聞かれて毎度言うんだけど、南北戦争期のガトリング砲は、見た目のインパクトなどに比していろいろ操作上の難点などが多く、運用実績から考えれば欠陥兵器に近かった。戦場で大活躍して戦局を転換させたような事実も、特にない。
— OGAWA Kandai (@grossherzigkeit) 2022年10月17日
ガトリングと言えば、漫画『究極超人あ~る』でエアガンのガトリングをアンドロイドのあ~る君が高速で回転させ物凄い弾幕を張るシーンがありますが、実機を使った実験でも、再現ドラマでもそんなに早くは回してないんですよね。むしろゆっくり回転させている印象でした。ソースを取りにいけないのですが、一定の速度で回さないと詰まって厄介なことになったらしいです。
それでも当時としてあの弾数は脅威だったでしょうけど。
再現ドラマ
最初は和装中心だったのが次第に洋装になっていく倒幕・佐幕両陣営の軍装。特にラスト近くの開陽丸内では、リーダーの榎本武揚はともかく、砲兵までが洋装(水兵服)になってるのがなんとも。
歴史人物の扱いとしては小栗忠順>>西郷隆盛>勝海舟>奥羽越列藩同盟のメンバー(河井継之助、松平容保)みたいな印象*2。
外国人ではパークスが巨大な壁でその他の外交官、商人が対抗してる感じ。
地上波からセリフが増えていたのは、勝海舟、坂本龍馬。坂本龍馬はセリフがなかったところにセリフがついていたのですが、結果としてアブない人という印象になってました。*3
長岡藩家老、河井継之助もガトリング砲グルグルのアブない人というイメージしか残らない印象でしたが、実際はそれなりに日本の未来を考えた人物ではあったようです。(但し、一般人に犠牲を強いてしまったため、評価は別れている模様)
坂本龍馬に関してはこの番組でフォローされてるかも。
フォローというか反論というか
この番組(というかNHKスペシャルのものも含めて)の感想として、蝦夷地(北海道)と引き換えに武器援助を欲していた列藩同盟に関し、国土を売ろうとしていた、売国奴、というような言い分を見かけましたが、多分当時は今より開拓が進んでいなかったはずで、しかも庄内・会津両藩の担当区域ってほぼ北海道の北部なんですよ。今でも北海道では本州より大きな熊は出るし、ひょっとしたらこの地域の警備をするのが元々きつかったから、渡りに船だったのかもしれません。
番組では触れられていませんが、孝明天皇の急逝で一気に局面が手のひら返しされた面もあり、溺れる者は藁をもつかむだったのかもしれないなあとも。
この番組がある数年前からこの説は新聞で見た記憶がありますが、その時からこんな印象です。
列藩同盟に助力していたシュネル(こちらより「スネル」の名で有名な模様)が不利な会津を見捨て、ひとり立ち去ったような再現ドラマの演出がされていましたが、実際は何人かの藩士を連れ、米国に移住しているという話もあり、評価は難しいなと……。
こちらの番組でシュネルに関してはフォローされているようです。
ちなみに幕府側の軍事顧問になったフランスと奥羽越列藩同盟から北海道を買い取ろうとしたプロイセンの普仏戦争が、プロイセン宰相ビスマルクの功績として出てきますが、これは1870年のことで函館戦争の翌年のことです。
幕臣の情報通は描かれていましたが、その情報がどれだけ幕府内、ないし徳川・松平一門の親藩・譜代間で共有されていたのかなという構造的な疑問も……。(そもそも通信に関するテクノロジーが今と比べて存在しないに等しい時代でもあったわけで。)
パークスがひたすら黒いですが、他の外交官もどうだったのかな、という気もします。特に幕府を援助したフランス側のロッシュとか。
龍馬、シュネルの扱いといい、既存の定説に挑むというのに力が入りすぎてしまった部分があるような気がします。
とは言え幕末の対外外交というと、昔は黒船来航トップだったアメリカが、現在の覇権国としてのイメージのまま、悪の親玉というか厄介な相手として描かれることが、昔は多かったような記憶もあるので、それに比べると随分変わったと言えるのかもしれません。
再現ドラマキャスト
エンディングテロップのキャスト一覧(役名は無し)から「番組名+キャスト名」で検索をかけて拾ってみました。
- 小栗忠順役:武田真治
- 西郷隆盛役:迫田孝也
- ハリー・パークス役:モーリー・ロバートソン
- アーネスト・サトウ(パークスの通訳)役:ネルソン・バビンコイ
- 榎本武揚役:中山麻聖
- 松平容保役:小野健斗
- 河井継之助役:渡邊修一
- 安藤信正役:中野剛
- 勝海舟役:高木トモユキ
- 坂本龍馬役:正木郁
番組名+キャスト名で検索かけても見つけられなかった方もいるので、それはご容赦下さい。
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