正式タイトルは「新・幕末史 グローバル・ヒストリー 「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」」。長いですね。
知られざる史実を人物と兵器中心に語る
一昨年やったNHKスペシャル「戦国」と同様に、近年の発掘資料などをもとにした、日本国内と海外をつなぐ史実を描くシリーズ。有名どころよりはちょっとマイナーな重要人物を、大河ドラマ並みに凝った再現ドラマで描き、また、当時の兵器類の威力実験などで、それらが時代をどう動かしたか語るドキュメンタリーです。
今回扱われるのは前回の「戦国」から250年飛んだ「幕末」。
あらすじを書こうとしたんですが、複雑で私の頭がついていけませんので下記の公式のあらすじを参考にしてください。
新・幕末史 第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機 - NHKスペシャル - NHK
それにしても一昨年の戦国時代と今年の幕末、対(つい)として、この企画作られたんでしょうか……。
国内は内戦群雄割拠状態だったものの、欧州の覇権国と互角か、やや有利に渡り合えていた戦国時代に対し、今回は太平が続き、やっとひとつの国になっていたところを、圧倒的に性能の上がった銃砲器類を持つ欧米に翻弄され、ついには内戦状態に陥った幕末。
対照的ですね。
日本への攻撃も考えていたイギリス
そして、強調していた「知られざる史実」ですが、関ヶ原の戦いから幕末までを書いた『風雲児たち』という漫画の読者様によると、以前から「知ってる人は知ってる」史実だったそうです。
既出の説ではあるとのことですが、それでも評価するとのこと。↓
(余談ですが、この番組の存在を知れたのもgryphonさんのブログでの告知があったお陰です。本当にありがとうございます。)
- ロシアの対馬占領
- イギリスの日本攻撃計画
- 通貨のレートに関する駆け引き
が、この漫画と一致する(無論それに対する見解に違いはあるようですが)とのことです。でも、それに関する史料がここにある、という形で一番元となる史料(古文書)の実物を見せてくことができるのが、NHKの強みなんですよね。
そして私はと言えば、最後の通貨に関してはややこしいから分かりませんでしたし*1、ロシアの対馬占領に関しては知ってましたが、イギリスの日本攻撃計画は知りませんでした。
日本国内の海上交通の要所を抑えた上で、大阪、京都、江戸を攻撃する、特に江戸は城下に住むサムライを無力化するため、木造が多いのを利用し焼き払い、その上で江戸城を大砲でボコボコに撃つ……という容赦も何もない恐ろしい作戦……。*2
聞いてません。そんな話((((;゚Д゚))))
という感じ。こんな説聞いたことありませんか?
「列強はそれほど日本には野心はなかった、別にどう転んでも占領や全面的な侵攻はされなかった」
とかいう意見。全然違う!!!
……まあ、「あらゆる事態を想定して」の話なので、どれほどの本気度があったのかは分かりませんし、強引な開国その他のことにブチ切れた日本人による外国人襲撃とかが背景にあったので、一方的にイギリスを責めるわけにもいきませんが……。(……ある意味9.11の責任を、テロ容疑者をかくまった国の国民全員に求めた構図と似ているような……)
しかし、そんなこともあろうかと、小栗をはじめとする幕閣は着々と海軍力を育てており、イギリスの軍艦の大砲より射程の長い大砲をオランダを通じて入手、それを知ったイギリスは、勝算はあるものの、経済的に割に合わないと侵攻作戦をお蔵入りさせます。ありがとうオランダ。
再現ドラマで、勝海舟の叫ぶ日本訛り丸出しの、「ほーげる・いんでん・ろー(ぷ)!(私にはこう聞こえました。砲弾を装填せよ、の意だそうで)」がお気に入り。オランダ語っていいなあ。
小栗忠順について
このシリーズの特色として、誰でもが知っているわけではないけれど、重要な人物を中心に扱う、と冒頭で書きました。一昨年の「戦国」の前編だと、フランシスコ・カブラルやオルガンティノらのカトリック宣教師たち、後編だと初代オランダ商館長ジャック・スペックスですね。*3
で、今回の「幕末」では、この小栗忠順を日本側の中心に持ってきています。マイナーと前述しましたが、西郷隆盛*4や坂本龍馬*5、新選組、勝海舟らに比べて知られてないだけで、戦国編で扱われていた人達と比べると結構有名な人ではないかと思います。何より昨年の大河ドラマ『青天を衝け』(私自身はあまり見られませんでしたが……)に出てきたので、覚えている方も少なくないのでは、と思います。*6
この人をWikiると1827年の生まれで*7、1860年に日米就航通商条約を結ぶための使節団(万延元年遣米使節)の一員として、ポーハタン号でアメリカにわたり、地球を一周して帰国、とのことなので、あの時代の世界を知っていた人だったと言えます。(ちなみにこのポーハタン号に同行したのが勝海舟や福沢諭吉を乗せた咸臨丸でした)
この万延元年遣米使節団で、目付の小栗がなぜか正使とよく間違われたんだとか。正使の新見正興氏は外国人慣れしていなかったのに、小栗は仕事で外国人と話したキャリアがあり、そのため堂々としていたかららしいです。新見氏も写真見る限りはイケメンだと思うんですけどねえ。*8
この新見氏ともう一人と小栗の映っている三人組の写真が載っていますが、おそらく袴は金糸銀糸を入れた華やかなものを履いていたようです。(写真見ると明らかに袴が光ってますからね)
……まあ、Wikipedia見ると後編のネタバレに一部なってしまいますが……(涙)。
余談として、私が小栗忠順、というより小栗上野介、という名前を覚えたきっかけで締めくくりたいと思います。
実は彼の名前を知ったのは探偵小説でなのです。学生時代に好きだった漫画家さんが、自分の単行本のおまけコーナーでおすすめの探偵小説ということで紹介していたうちに、高木彬光の『黄金の鍵』という作品があったのですね。
この作品自体は昭和40年代の日本(多分執筆当時の現代)を舞台にしたものだったのですが、あやしい儲け話として、徳川埋蔵金を探すビジネス、というものに関連して小栗上野介の話が出てきたのです。
昭和の事件と、幕末当時の小栗の動向を推理していく入れ子構造になってたような記憶があります。(ずっと読み返してないから違うかもしれません)。ラスト、小栗自身の人生と徳川埋蔵金の行方についての一考察が出るのですが、「悲しいなあ……」と思ったのを覚えています。
では。
NHKオンデマンドからはこちらへ。
2023年10月13日まで。
第2回はこちらへ
2023年10月20日まで。
一応一昨年の戦国編がまだ見られるのでNHKオンデマンドとアマゾンプライムのリンクはっておきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。よろしければクリックお願いいたします。
*1:昔歴史番組で通貨に関する幕府と列強の激論についての話を見たような気もするので
*3:特にスペックスは「盲点だったなー」と。最初のオランダ商館長なのにあまり知られてない(多分教科書にも扱いがない)というのも不思議な話
*4:『鎌倉殿の13人』で範頼を演じた迫田孝也氏が演じていますhttps://twitter.com/nhk_osaka_JOBK/status/1583775170002448385
*5:再現ドラマではチラッと出てくるだけでしたが、来年放送される完全版ではセリフがあるかもとのことhttps://twitter.com/ksfa79/status/1581628415718739968
*6:さらに彼をドラマと同じ武田真治氏がやっているのもポイントが大きいでしょう
*7:ちなみに7月16日生まれのかに座
*8:そういう問題ではありません。新見氏も温和な人柄でアメリカ側の評価は悪くなかった模様。新見正興 - Wikipedia