今週のお題「SFといえば」
初めてお題に挑戦します。
私にとってSFと言えば星新一、でしょうか。確かもう星新一全集みたいなのが出ていて学校の図書室にあって、中学から高校にかけて、ショートショート編も、長編も結構読んだ記憶はあります。
ええ、読んだ記憶「は」あります。
でも大半忘れてしまったんです。
覚えているのが以下の作品。
「味ラジオ」
確か歯の表面に受信機を付けることで、味覚を操作して、一日四六時中何か食べてる気になれる話。朝は歯磨きのために汲んだ、ただの水道水がハッカ(ミントだったかも)味になるところから始まってたかと。
料理の味だけを味わうために食べては吐いたと言われる古代ローマ人の生活*1みたいなのを、科学的に実現した社会なんですが、「ラジオ」というからには……というあらすじ。
文明風刺の一面があるのでしょうが、第一感想は、「こういうのあったらおいしそうだな」というものでした。仕事中飴舐めたり、甘味のついた飲料飲んでると虫歯になりますが、これならその不安もない(はず)ですしね。
今思うと、寝坊したい人や、昼夜逆転の生活していて、寝ているところにいきなりハッカ味がガツーンと口中に広がったら安眠の妨げになるんじゃという気もしないではないですが*2
この技術、驚くべきことに一部実現しているそうです。歯に受信機を付ける本作とは違って、特殊な手袋を使用することで味覚を操作するものだそうです。
減塩などに期待がかけられているとか。
「開拓者たち」
宇宙に人類が進出している時代、ある開拓惑星の話。環境が厳しいので、地下都市みたいなところに住み(うろ覚え)、食料は農耕牧畜ではなく、元素を合成して食事を作って人々は暮らしていた。
しかし、奇病による死亡者が発生してしまう。原因は未発見の元素の欠乏による合成食料自体の欠陥(要するに一種の栄養失調)と判明。それを解決するために地球からも隔絶していた彼らに残された手段は……。(こっから先はネタバレになるので禁)。という話。
タイトルは内容のキーワードで検索して見つけました。加工食品に囲まれている現代人にも起き得そうな話ですが、食材段階のものがすぐ手に入る環境じゃないという条件がつらいですね。子を思う親心の深さと、それゆえの怖さなんかも感じました。あと、合成食料の方がいい、っていう子供の感覚とか。
この話を巡って、「栄養失調」という言葉がポンと出たのは、この文を書き始めてからです。
歴史上、ビタミンが発見される以前、ビタミンCの不足による壊血病*3、ビタミンBの欠乏による脚気*4が時として死に至ることについては、学習漫画や保健体育で知っていたのですが、若い頃は身近では克服されていたこともあり、気にも留めませんでした。
それが最近、ドラマや漫画、歴史系の読み物などを読むことで、改めてその怖さ、ビタミンが未知だった時代の人は、何が原因かわからず暗中模索したんだろな、というのがしみじみわかってきましてね……。
特に日本での脚気は怖かったでしょうね。注には確実に罹ってたと言われる人を入れましたが、徳川将軍の家定、家茂も死因は脚気だとも。
金銭的に余裕があり、何不自由のない食事を摂れるはずの将軍やその家族、天皇までもが罹ったのですから……。多分発想はそこら辺からなのかな、と書きながら気が付きました。
ところで、合成食料と言えば、松本零士氏の『銀河鉄道999(スリーナイン)』の食堂車も、元素合成で料理を作っているんだという設定があるという話を人から最近聞きました*5。あのマンガで食堂車でおいしそうにステーキ(作中では確か「ビフテキ」)を食べるシーンがあるのですが、あれが合成品だったの? と思うとちょっと感動が減る気がします。
それはともかく、この話に出てくる合成食料も、現代では一部実現していて、大気からタンパク質(肉)を合成する技術が出てきているそうです。
牧畜よりも「地球にやさしい」とのことですが、そんなうまくいくかな? とこの話を引き合いに考えてしまいます。
「美味の秘密」
タイトルは違ったような気がするんですが、あらすじで検索したらこれでした。
食道楽なお金持ちが、ある日町の定食屋のようなお店で、この世のものとは思えないおいしい料理を口にする。コツを教えてもらうと意外なもので……。という話。
読んでいた中高生の頃は、「おいしそう」とか「相変わらず皮肉なオチだなあ」という感じでした。
でも、自分で料理を作るようになって、「やる気のない」料理人さんの気持ちが分かって来たというか。
さらに年を取って、「好きなことを仕事にするものではない」という暗喩が含まれているのかもしれないと思いました。ただ享受する(批評することも含む)のと、実際に作るのとでは大違いなんだよ、ということかもとか思います。
「景品」
これもタイトルは検索しました。現代のポイ活を先取りして皮肉ったような話。ポイント(作中ではチケットだったかなんかの、違う名称だったと思う)と商品の関係が逆転してしまったような社会で、断固として「現金で」物を買おうとする昔気質な男と、それに感心する店主、そして最後のオチがある意味すごくバカバカしくて、私の眼からすると可愛いらしい話です。
こんなところでしょうか。記憶を頼りに書いているので、今読み直したら間違っているところとか、違う感想とかも浮かぶのかもしれません。
自分のどうしようもなさを感じるのが、全部「食」が絡む話なんですね(ネタバレになるかもですが、「景品」も、オチに、ある食べ物が出てきます。)
文明批評とか色々深い話も込めたでしょうに、私ときたら「おいしそうな話」か否かで多分頭脳がふるいにかけてしまってるんでしょうねえ……。胃袋人間ここにあり。人間の三大欲求の一つだから仕方ないですね。
三大欲求と言えば、星氏のデビュー作*6は「セキストラ」といって性欲の発散を科学的に可能にする発明と、その効果が社会に与える影響を淡々と描いていく作品でした。
読んだ当時は、後の作品と作風が違うため、あまり面白くなく、それもなぜ面白くないと思うのかわからなかったのですが*7、少子化傾向とその原因の一つとして、各種の娯楽産業が挙げられている今考えると、シャレにならない予言的作品だなと思います。
ショートショートの巨匠の作品について語るには随分長くなりましたので、この辺で。星新一氏についてはエッセイなどの記憶も語りたいのですが、それに関しては別の機会にすることとします。
参考一覧
明治時代に国家を揺るがせた大問題「脚気論争」について歴女が解説 - ページ 4 / 4 - Study-Z ドラゴン桜と学ぶWebマガジン明治天皇が脚気にかかったことが書いてあります。
2022.7.26.13:38 文章の細部を修正
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